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解散したeスポーツ大会運営団体の関係者が明かす、高額賞金大会・インフルエンサー旺盛時代における大会運営の難しさ

2023年2月に閉鎖となった独立系eスポーツプロダクション『Beyond The Summit』の元スタッフHotBid氏が、質問に答える形で解散となった背景について明かしました。

中規模団体が高額賞金大会・インフルエンサーeスポーツに対抗する難しさ

先に結論を簡単に紹介すると、『Beyond The Summit』は選手やチームが公式大会・高額賞金大会を最優先するなかでのキャスティング、選手やインフルエンサーの出演費用が高騰する状況での予算確保に苦しみ、安定した大会運営が困難になったということになります。

先日、「eSports World」で「TOPANGA」と「VARREL」の経営統合にまつわるインタビューを読みました。その中で、株式会社TOPANGAの元代表で現在は新会社CELLORBの取締役副社長を務める豊田風佑氏も、現在のeスポーツ大会・イベント運営の難しさについてコメントされていました。ちょうど似たような話題だと思い、双方を紹介する良い機会ということで今回の記事を作成した次第です。

豊田:2〜3年前からTOPANGA単体で経営をしていくことに限界を感じていました。どこか大きな企業と組んでほかのことにも着手するか、セルアウトして大きな会社に使ってもらう立ち位置に今後なっていくんだろうなと。

イベント、選手のマネジメント、配信がTOPANGAの主軸として動いています。選手のマネジメントに関しては問題ないのですが、イベントや配信に関しては違う。

イベントに関していうと、サウジアラビアで開催されている「Esports World Cup」のような大規模なeスポーツ大会が増えてきているじゃないですか。あれほどの大規模な大会が増えてくるとTOPANGAではとても太刀打ちできないという感覚があったんです。また配信もどんどんクオリティーが上がってきていて、配信の基準点を上げていくとなるとものすごくコストがかかってしまう。

現状を維持して会社を存続させることはできるけれども、新しい手を打たないとeスポーツのブームが去った時、みんなで野垂れ死ぬことになってしまう——。そんな未来が見えるようになってきたというか——。

『Beyond The Summit』解散の背景:高額賞金大会・インフルエンサー旺盛など時代が変化

『Beyond The Summit』が実施していたのは、選手との距離感が近く、他の大会では見ることが出来ないようなエンタメ要素が強い大会でした。

『Beyond The Summit』の元スタッフHotBid氏は、redditの下記スレッドに登場し『Beyond The Summit』解散の背景について回答を行なっていました

What is your favorite single CS tournament? Mine was by far the first cs_summit.
お気に入りのCounter-Strikeトーナメントを教えて。自分は第1回cs_summitがとびぬけて最高だった
https://www.reddit.com/r/GlobalOffensive/comments/1e3sphs/comment/ldaifiv/

質問投稿

cs_summitがビジネスとして上手くいかなったのはなぜなのでしょうか?予算が特に高かったようにも思いませんし、他の大会運営組織はいまでもスタジオイベントを開催しているので、不思議に思っています。cs_summitはみんなが愛していたイベントだけに残念です。

HotBid氏の回答

いまならば、この質問に答えることができます。cs_summitは、カジュアルな環境における個人の個性に大きく依存していました。この仕組みは、シーンが特定のサイズを超えて大きくなると維持するのが困難になります。

cs_summitには高額な賞金プールがなく、メジャー大会の予選でもありませんし、ESLランキングにも関係しません。そのため、cs_summitのために選手やチームにスケジュールを確保してもらうのが難しいという状況がありました。また、出場することへの価値を選手たちに提案することも不十分でした。

shroundやTarikはcs_summitの会場に来て、ソファーで楽しい時間を過ごし、動画コンテンツを作ったり、試合後は時間あたりで数千ドル高い報酬を得られる配信を実施することが出来ましたし、そもそもイベントに参加しないということも可能でした。そのような選択を非難するつもりはありません。Dota 2のイベントでも同じようなことがありました。

Beyond The Summitは、選手達の出演費用が高くなり、単純に手が出なくなったということです。現在、トップチームやインフルエンサーに出演してもらうためにどれだけ多くの予算が必要かを考えれば、こうなること明白でした。

ESLなどは、1年以上も前から出場チームや出演者を確定させてスポンサー獲得の計画を行なう場合もあります。Beyond The Summitは小さな会社なので、どのチームが出場してくれるかもわからないまま、数ヶ月後に開催するイベントのスポンサー営業をしていました。

例えば、FalleNとTACOのチームが出場するかしないかで、視聴数には大きな変動がありました。「MIBRかCloud9が出場してくれるかもしれませんが、出場が無かった場合視聴数はマイナス5万の想定です」ということにスポンサーは納得してくれません。

出場チームを充分に揃えたとしても、スケジュールが合わなくなったり、他のイベントに出場することを優先して直前に出場キャンセルになることもあります。そのため、cs_summitを計画・開催するのは非常に難しいことでした。

『Beyond The Summit』が行なっていたカジュアル構成大会での工夫

回答に対する返信投稿

非常に悲しいです。2025年はより多くの大会組織が登場し、ESLの独占市場にならないことを願っています。可能であれば、Beyond The Summitがいつの日か復活することを願っています。質問に答えていただきありがとうございました。

HotBid氏の追加投稿

どういたしまして。Beyond The Summitの復活は、残念ながらほぼ確実に無いと思います。eスポーツイベント自体は利益を生み出しません。Beyond The Summitは、インフルエンサーやサードパーティーに関連するeスポーツイベントを多く支援してきました。ですから、元Beyond The Summitのスタッフ達が、Ludwig Ahgrenの「OFFBRAND Productions」でインフルエンサーイベントを実施しているのは不思議ではありません。非常に得意とすることですし、インフルエンサーイベントの予算から得られる利益率はかなり高いからです。

様々な理由があり、cs_summitの雰囲気を再現するのは基本的に難しいことです。ESLや他の大会運営組織も試みてきましたがうまくいきませんでした。

選手やコーチに充分なお金が入ってくるようになると、「自由時間」から出演時間を取ってもらうことは難しくなります。選手やコーチはコミットメントしなければならないことが非常に多く、彼らの時間というのはあまりにも貴重なのです。

「ハウス」の雰囲気は、ホテルやイベント会場では再現することができません(※cs_summitは、一軒家を使って実施されていた)。
例えば、cs_summitでは選手がプロダクションエリアのまわりにふらりとやってきて、突然出演するということが実現したりしました。

もし、選手が自分の部屋に戻ったり、プロダクションエリアが別の場所にあったり、おなかが空いていたらそのような出演は実現しません。選手達はいなくなってしまうからです。

cs_summitはカオスな状態でしたが、選手をキャストティングするための利便性を最大限に高められるよう設計していました。食べものはプロダクションエリアの近くにあり、練習部屋に行くためにはプロダクションエリアのそばを通る必要がありました。すべてがプロダクションエリアの周りに集約されていました。そして、選手達は有名でしたが、いまのように超有名というわけでもありませんでした。FalleNやTACOたちの出演は、イベント体験に大きく影響しました。

楽しくてカジュアルな招待イベントをスケジューリングすることは、激しい競技イベントには合いません。メジャー大会やサーキット予選には高額な賞金が設定されているので、ティアSのチームが、Beyond The Summitのようなサイドイベントに出場するために、2~3週間スケジュールをあけるようなことはありません。RMR(メジャー予選)や巨大なスタジアムイベントをcs_summitと同じような雰囲気にすることができないのには、上記のような理由があります。

ESLの独占となることについては、良し悪しどちらもあると思います。例として、多くのファンはランキングやパートナー制度によって出場チームが決定されるイベントに否定的で、オープン予選方式のメジャー大会のほうが良いと考えている場合もあります。しかし、ESLが多くのチームと提携しているおかげで(※金銭の配分がある)、ロスターが維持出来ているという事実もあります(メジャーのステッカー売上配分もそうですが)。

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情報元

※Counter-StrikeシリーズのキャスターMamEさんがSNSで紹介されていたところ非常に面白く自分でも紹介させていただきました

この記事を書いた人
Negitaku.org 運営者(2002年より)。Counter-Strikeシリーズ、Dota 2が大好きです。 じゃがいも、誤字脱字を見つけるのが苦手です。

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