プロゲームチーム DeToNator代表の江尻勝氏がホストを務めるトーク企画「まさるの部屋」の番外編『eSports座談会 in STORIA』が6/23(金)に開催されました。
今回のeSports座談会は、「eスポーツ」に関わるゲストを迎え、現在の問題や課題に立ち向かう内容のトークを展開しました。
左: アシスタント YamatoN氏(プロチームDeToNator所属ストリーマー)、江尻勝氏(DeToNator代表)
ゲスト: 大浦豊弘氏(サードウェーブデジノス コミュニケーション開発部 部長)、谷口 “noppo” 純也氏 (NVIDIA マーケティングマネージャー、元プロゲーマー)、田原尚展氏(C4 LAN運営委員、元プロゲーマー)、アール氏(実況者)
今回の座談会では、6つのトピックスと、2つの質問コーナーという構成で展開されていきました。
トピックス
企業代表として出演したサードウェーブデジノスの大浦氏、NVIDIAの谷口氏の2人は、このお題に対して「エントリーユーザをいかに増やすか」を挙げました。
大浦氏は2016年8月にゲーミングPC『ガレリア』シリーズを展開するサードウェーブデジノスに入社。以前はマイクロソフトで「Office」製品を担当していたとのこと。「企業がマーケットに投資するためには、市場が大きくなっていく必要がある。そのためには、eスポーツに関わる新たな人を増やしていかなくてはならない」と大浦氏。
谷口氏は2003年から「Counter-Strike」シリーズをプレーするようになり、日本代表として世界大会に5回出場。スウェーデン、台湾での留学経験があり、現在は「NVIDIA」のマーケティングマネージャーとしてeスポーツを担当しています。谷口氏は大浦氏と同様に新規ユーザーの獲得が課題とはなし、大会をコンスタントに開催し選手が活躍したり収入を得ることができる場を用意したり、スター選手を作り出せるよう出来る限りサポートしていきたいと選手出身ならではの施策についても言及していました。
プロゲームチームDeToNatorでストリーマー(ゲーム配信者)として活動するYamatoN氏もこの意見に近く、「eスポーツへの入り口作り」や「内容の充実」を挙げていました。ゲーマーの中でもeスポーツを知っている人の方が少ないだろうとし、現在はストリーミング配信を通じて視聴者にeスポーツを知ってもらうための活動を行なっているそうです。
コミュニティ代表者ともいうべき田原尚展氏とアール氏は、「イベントを楽しむ」という姿勢が必要であると言及していました。
田原氏は2007~2010年にアメリカに渡り世界大会に挑戦していた元プロゲーマーで、現在はゲームを持ち込みイベント『C4 LAN』の開催を行なっています。田原氏はこのテーマに対し、「企業に出来る限り支援をしてほしい」と大浦氏・谷口氏にアピールしながら、コミュニティに対して「本気でゲームを楽しみ、好きなゲームやイベントを自分達が盛り上げていくという視点で動いてほしい」とコメント。
アール氏はフリーのゲーム実況者で、1年ほど前からゲーム配信サイト『Twitch』のスタッフとしての活動も開始。メインは格闘ゲームの実況配信ですが、リアル格闘技イベント「巌流島」や、スマートフォンゲーム「ドラゴンクエストモンスターズスーパーライト」の公式実況も務めるなど活動の幅を拡げています。
そのアール氏は今後の発展に必要な事として「イベントの楽しみ方」を挙げ、イベント会場に行った際には声を出すなどして盛り上げてくれると実況者としては非常にうれしいとコメントしました。
プロゲーマーにお金を出す側の立場であるサードウェーブデジノスの大浦氏は、野球のイチロー選手、サッカーの本田圭佑選手を例に出し、彼らが発する言葉はファンはもちろん、それ以外の人にも大きな影響を与えるように、これからのeスポーツ選手は見られる立場、業界を背負う存在であることを自覚しつつ発言して欲しいとプロゲーマーから発せられる「言葉」に期待しているそう。
元プロゲーマーの田原氏は、「世界を獲りに行きたいという気持ち」を挙げました。現在のeスポーツは数年前とは比べものにならないほど充実した環境が整っており、行こうと思えば海外大会にも参加しやすいとして、「プロゲーマーになった」「日本一を達成した」とTwitterのプロフィールに書いて終わってしまうのでは物足りなく、もっと海外に打って出るような熱量のあるプレーヤーが増えて欲しいと要望を述べました。
ホストの江尻氏が「格闘ゲームはみなさん自費で海外に行かれていましたよね」とアール氏に話を振ると、アール氏は格闘ゲームは元々日本が圧倒的に強く、海外は大会賞金が高額という背景があり、日本の選手が出場すれば高確率で渡航費をペイしてさらにプラスにすることが可能で、その成功事例を見た他の選手が続々と海外に向かうようになったことが背景としてあると説明しました。
日本のeスポーツは海外よりも劣っているとよく聞くが、数字としての実例は何かあるか
ラウンド3は会場を訪れた人からの質問を募集。「日本のeスポーツは海外よりも劣っているとよく聞くが、数字としての実例は何かあるか」という質問に対し、江尻氏は一番わかりやすいのはお金として世界最高峰のeスポーツ大会は『Dota 2』の公式世界大会で賞金総額約23億円、優勝すれば8億円。日本ではスマートフォンで5000万円という大会がある(※モンスターストライク)があるが、日本での高額賞金は法律的な問題を抱えていると回答。
5月にオーストラリアで開催された『Intel Extreme Masters Sydney』を視察してきたという大浦氏は、同大会は全日程で来場者が5~6万人、会場は日本武道館クラスで、連日満員は当たり前。さらに、会場に出展しているブースもとてつもない人だかりであったと現地の様子を紹介。世界トップクラスのeスポーツ大会であれば、少なくとも5万人は客を呼べるのに対し、日本では『LEAGUE OF LEGENDS JAPAN LEAGUE』が約2,500人(それでも大変にすばらしいことだが、という補足もあり)という状況、と例を紹介していました。
スマートフォンゲームが盛んな日本でPCゲームのeスポーツを普及させるには?
こちらも大浦氏の回答を紹介すると、スマートフォンゲームをしている人はそもそもPCゲームを知らない可能性が高く、eスポーツが盛り上がっている映像を見せても、エキサイティングしてくれるかは疑問と考えているそうで、そもそも本人が体験出来る場が必要ではないかと回答していました。
スマートフォンゲームの公式実況を行なうアール氏は、スマートフォンゲームの対戦にも駆け引きがあり、スマートフォンゲームをプレーする人もPCゲーマーと熱量は変わらないとのべ、スマートフォンゲームが増えていくことで、潜在的なeスポーツファンの増加に繋がっていくのではないかと答えました。
こちらはメモがあまり残っていなかったのですが、テクノロジー的にはVRのeスポーツゲームが今後台頭していく可能性があるという話や、休みの日に野球などのスポーツをするように、みんながeスポーツをするようなカルチャーになって欲しい、という希望、『ELEAGUE』など大手メディアが高額かつクオリティ高い大会を開催し高い視聴率を残す結果、今後は欧米にeスポーツ選手が集中していくのでは、また今後のeスポーツはストリーミング配信を中心に視聴者が伸びていくだろうといった予測などの話が出ました。
YamatoN氏はプロゲーマーをしているとスランプや環境などで様々な問題が起こることから「耐えられる力」を挙げていました。例えば、プレーしているゲームでは国内大会しかないが、世界大会につながる機会があると信じて耐えながら続けられるか。諦めたらそこでおわり、信じて続けられた人のみがプロとしての成功をつかめるとしていました。
これは、2011~2012年頃に『Counter-Strike1.6』が廃れる中でプロゲーマーを引退する人が続出しましたが、がんばって続けていた人はその後爆発的なタイトルとなる『Counter-Strike: Global Offensive』に移行してプロを続けられた、というようなエピソードが近いでしょうか。
アール氏は「道を切りひらくことが出来る」ことをあげ、プロの肩書きを得てから何をして道を作っていくかが重要としました。
同氏はかつてプレーしていたゲームで大会が開催されないような状況となってしまいましたが、「どうしても大会をやりたい」として仲間とアーケード筐体を2体購入し、公民館を借りて大会を行なったというエピソードを披露。コミュニティから「出来る訳がない」といった批判も受けたそうですが、最終的に成し遂げたそうです。
また、アール氏は「選手が主役」という考えを大前提として活動されているそうですが、自身が実況者を職業として活動していく時にある程度自分の存在感を示していかなくてはならないところで葛藤したとのエピソードも披露。主役ではないけど存在感を出すために、グローバルで認められている日本人がリスペクトされているという点に着目し、自身も海外で有名になることを考えました。そこで、海外大会のレポート、執筆の企画を企業に提案し渡航費等を出してもらいながら海外大会に行き、そこで友達を100人くらい作る気持ちでコミュニケーションし自身の売り込みも行なったという、自ら道を切りひらいたエピソードを明かしました。
こういった、自分が信じる道を突き進めることがプロには必要ということでしょう。
ソーシャルゲームをプレーする「小学生にゲームで強くなるためにはどうしたら良いか」という質問をしたところ9割が「課金」と答えたという事例を聞いたが、そういった人達をソーシャルゲームからeスポーツに移すにはどうしたら良いか、という質問。
こちらも先の質問コーナーの回答に近く、その小学生達は「eスポーツとしての対戦やゲーム」を知らないのでは、ということで体験してもらうことで考えが変わっていくのではないか、という回答がありました。
個人的に思ったのは、ソーシャルゲームはやはり自分の操作や考え方を向上させるよりも課金して強いキャラクターを得た方が圧倒的にアドバンテージを得られるゲームデザインが多いため、小学生がそのように答えるのもある意味納得です。
面白かったのは田原氏の回答。『Esports World Convention 2016』の『FIFA』部門日本代表のマイキー選手の通訳として現地で観戦したそうですが、このタイトルは基本的に課金を前提に選手を獲得してチームを作ることが前提というルールで開催されていたそう。優勝候補は50万円近く課金し腕も超一流ですが、実際に優勝したのは課金数万円の他の選手だったそうで、必ずしも課金が有利ではない他、今後のeスポーツでは課金を前提としたルールが増えてくる可能性もあると指摘していました。
以前観戦しにいった賞金総額5000万円の『モンストグランプリ2016』も基本は課金キャラクターありのルールでした。
F1などのカーレースも、基本的なレギュレーションがありつつもお金をかけているチームの方が有利なマシンを作れたりするな、という例が思い浮かびました。
とあるゲームをプレーする、それについて会話する、関わっている人などを総称して「コミュニティー」と呼ぶという認識についての話がまず行なわれました。
大浦氏は、今後のコミュニティには、既存の人以外の人が参加出来るような空気感を作って新規ユーザーをいかにコミュニティに増やしていくかが大切かという話をされていました。
また、「格闘ゲームコミュニティについて聞いてみたい」という江尻氏の振りからのアール氏の回答が大変に興味深いものでした。
アール氏は大きな語弊があるかもしれないが、と前置きをしながらも格闘ゲームにおける「コミュニティ」は「善意」、「eスポーツ」は「ビジネス」として位置づけられているのではないかと回答。
格闘ゲームコミュニティは、大会やイベントが少ない時期が長く、自分達でイベントや大会を企画し、実況、運営も全て行なうという事を積み重ねていった結果、それぞれを自分達が高い水準でまかなえてしまうほどのレベルに達するようになったそう。
ただ、今後格闘ゲームが「eスポーツ」の流れでビジネスになっていった場合、本来はプロの設営会社や司会などを使うべきところを自分達で出来てしまうからと無償でやってしまうことで業界にお金の流れが出来なくなったり、コミュニティでこの役割をやるならこの人という認識が出来上がってしまっているものが、ビジネスになった関係で違う人が担当することになり、みんなが望む物にならない可能性があることなどを危惧していました。
最後のコーナーは、ホストの江尻氏がeスポーツを取り巻く環境が良くなるにつれての功罪がある、ということをチーム運営者の視点から語りました。
現在、プロゲーマーになりたいとチームの門を叩く加入希望者が待遇として希望するものとして「ゲーミングハウス」「コーチ」「セカンドキャリア」「マネージャー」「お金」の5つがあると江尻氏。
それらを欲する明確な理由や実績があり、投資する価値があると判断した選手にはもちろん用意をしますが、多くの選手はそのような考えや実績も無く、自分の価値を示せないままに現在のeスポーツブームで流れる情報などに煽られてプロであれば当たり前の待遇と信じ込んでしまっている人が多いそう。
今回登壇したゲストは、このような待遇がなくとも、与えられるのを待っていたのではなく、目標を設定し自ら行動していたからこそ現在の地位がありリスペクトもされているとして、プロを目指す人も、応援する人も「プロフェショナル」であることの価値について考え、厳しく見ていくようになってほしいと語りました。
大原氏は、企業がスポンサードのためにお金を出すのは大変なことで、自分だけ1人では決められない。その費用対効果はどうなるかを会社に説明して承認を得る必要がある。効果が出なければ、次にお金が出ることはない。プロゲーマーになろうという人は、こういった事実があることを自覚して欲しいと補足していました。
最後は厳しい話となりましたが、田原氏のコメントを借りればいまは間違いなくバブルで、それが終わってしまったときにどのようなプロゲーマーが残るか真価が問われるようになる日がいつかやってくることは間違いなさそうです。
個人的に、今回は大浦氏やアール氏など自分が見ている分野とは違うところで活動されている方々のエピソードがかなり興味深いものでした。eスポーツはPC、モバイルだけでなくコンソールもありますし、色々な関わり方をしている人もたくさんいるので、今後も多種多様な方の話を聞くことが出来るイベントになって欲しいと思います。