株式会社HORIが「EDGE」ブランドでPCゲーミングデバイスへの参入を果たしました。この件について、プロジェクトメンバーにお話を聞かせていただくことが出来ましたのでご紹介します。
写真: 左より富沢仁 氏(営業部 部長代理)、村松洋明 氏(商品開発部 部長代理)、天野 幸一郎 氏 (商品開発部)、小林敦 氏(商品開発部)、写真にはいませんが浅葉祐輔 氏(営業部)
株式会社HORIはコンソールゲーム機のコントローラーや格闘ゲームのアーケードスティックといった商品の展開でゲーマーに知られるメーカーです。
このHORIが、「EDGE」ブランドでPCゲーミングデバイスに参入することを2015年10月に発表しました。
第一弾として登場するのは、「ゲーミングマウスパッド」(2タイプ)「ゲーミングマウス」「ゲーミングキーボード」そして「コントローラー」の4種5製品です。
これらの製品や参入のきっかけについてお話を聞くことが出来ましたので、HORI社にお伺いし色々と質問をさせていただきました。
※下記において、敬称は省略表記させていただいています
村松
PCデバイスをやろうと考えたのは3年程前になります。コンソール機もPCに近い仕様になってきており、ゲームによってはキーボードを使える物も出てきている状況の中で、弊社もPCデバイスをやっていかないと今後デバイスメーカーとして太刀打ち出来ないと考え、PCゲーミングデバイスに参入する事にしました。
また日本のメーカーがPCゲーミングデバイスを立ち上げないと海外メーカーに市場が踏み荒らされていくと。それならば、我々がやるしかないという決断がきっかけですね。
村松
そうですね。ゲーミングデバイスをやるからにはそろえて出したいなと思い、この4種類を用意しました。
コントローラーについては、実は10年くらい前に出していたのですが、みなさん全然知らないというエピソードがあるのですが(笑)。
村松
HORIとしては「製品に必ず1つは他社に無いものを入れよう」ということで開発しています。独自のスイッチや、海外メーカーでは気付かない日本メーカーならではの要素を今回の製品に取り入れています。
例えばマウスでいいますと、一般的にはテフロンソールが主流ですが、フッ素潤滑メッキを施した金属という、日本のメーカーでしか作れないものを取り入れています。
キーボードについては、ゲームモードで無効に出来るキーを海外メーカーでは対応していないところまでサポートしていたりですとか。
Yossy
一般的に無効に出来るのは、Windowsキーなどですよね。今回でいうと…?
村松
半角全角キー、Caps Lockですね。こちらもオフにすることが出来る仕様になっています。
最初から全て使えないゲーム特化仕様にしてしまうと通常利用ができなくなるので、ここは切り替えが出来るようにしてあります。
小林
ゲーミングマウスのスイッチというとはオムロンさんの製品が一般的だと思いますが、「EDGE 101」には弊社独自のマイクロスイッチ「EDGE-M01」を使っています。
他社さんのものと比較して、どれだけスイッチの「オン」を速く出来るか、すぐに撃てるかという点に着目して開発がスタートしました。独自スイッチでは、50%速く入力できるようになっています。
オリジナルマイクロスイッチは左右のメインボタン、スクロールに採用しています。
村松
マイクロスイッチの開発が、「EDGE」プロジェクトで1番最初にスタートしたことなんです。
当時はまだ他社からオリジナルスイッチというものは出てきていませんでした。
Yossy
そうですね。他社からも次々に独自スイッチが出てくるようになりました。
オリジナルのものを作ろうと決めたのは他社製品より良い物を作る事が出来る自信があった、ということなのでしょうか。
村松
はい。アーケードスティックの「リアルアーケード」シリーズでは以前他社のものを使っていたのですが、スイッチは操作感で1番重要な部分ですから、自分たちで作らなければということで独自開発することになりました。今回のマイクロスイッチもそういう経緯です。1番メインのところは自分たちで作ろうと。
富沢
マウスで1番重要なのはセンサーですが、そこは自分たちでは作る事が出来ないので、「次に自分たちがこだわれるとこはどこか」となってきた時にマイクロスイッチになりましたね。
小林
テフロン製ソールの場合に、1番気になるところは耐久性ですね。コアなゲーマーさんですと、すり減ってすぐに貼り替えることになったり。
そういうところから始まりまして、なぜテフロン製ソールは摩耗しやすいかというところを調べました。
マウスパッドとの相性もあるのですが、やはりそのものが柔らかいのですり減ってしまいやすいというのが弱点です。
では代わりに使えるものはないのかと素材を探したところ、国内にテフロンと同等に滑る金属があると知りまして、それが使えるでは無いかと検証するところからスタートしました。
村松
重りの役割として金属が1枚真ん中についているのですが、本当は全面を金属にしようと考えていました。
ソールを何度も貼り替えるというのはあまり良くないのではと思いまして。
Yossy
この金属だとどのくらいの期間、滑りが変わらないものになるのですか?
小林
かなり長持ちします。
大体、一般的なソールはマウスの総移動距離が250キロメートルくらいでダメになるのですが、弊社の金属ソールですと、現状その3倍の750キロほどでも表面のメッキが健在な状態です。
Yossy
3倍以上というのはすごいですね。この金属ソール自体を別途販売するような予定はありますか?
天野
基本的に、マウス本体の寿命が終わるくらいまでは持つものになる予定ですのでいまのところは考えていません。
コンソール周辺機器でもそうなのですが、日本のHORIが作る製品として、海外製品と比べて丈夫で長持ちするというところを大切にしています。日本製ゲーミングデバイスとして、この耐久性というところは売りにしていきたいと思っています。
小林
「EDGE 101」は金属ソールを全て付けてケーブル抜きで135グラムになります。真ん中の重りを外すと105グラムになります。
村松
持ってみていただくとわかるのですが実際はそんなに重さを感じないと思います。
Yossy
確かに持ってみると、印象と違って重くないですね。重りは着脱できるんですね。
小林
重いものはなるべくマウスの底につけるようにして重量を感じないよう工夫しています。
村松
我々も軽いほど良いだろうと思っていたのですが、海外から「重くないとイヤだ」という意見が出てきて、そちらにも対応出来るようにしようと。マウスを空けて重りを入れるというのは重心が高くなってしまうので、さきほど説明があったようになるべく重いものは下へ配置するよう工夫しました。
日本の方は、はずして使っていただくのが良いと思います。
また、ソールを横に長いもの2枚にしたのは、一般的な4スミにつけるソールだと、マウスパッドの境目に来た時にガクッと落ちてしまうので、この形状だとそういったことを防ぐことが出来るからです。
小林
ソールを四角ではなくアールを持たせる形状にすることで、マウスパッドから落ちたとしても復帰しやすくするような細かい工夫もしています。
小林
これは自分の要望として付けたいと思っていたもので、最終的に採用となりました。
マウスは持ち方によって押せるボタンというのが限られてきます。
いわゆるかぶせ持ちだとサイドボタンは大体普通に押せます。
つまみ持ちなど後ろの方に来る持ち方だと、押せないサイドボタンというのが出てきます。
そこで、どのような持ち方でも基本的にサイドボタンを前後2つは押せるようにしてあげたいということで、この後ろのボタンを付ける事にしました。
自分の場合は、ゲーム中のボイスチャットをここに割り当てて押さえ込むような形で使用しています。
Yossy
なるほど。そういった選択肢を持たせるためなんですね。
これは聞いてみて良くわかりました。
村松
そこは社内でも最後まで付けるか付けないかは議論がありました。
使い方によって「いるよ」と「いらないよ」という人が完全に別れていましたので。
小林
マウスは、スイッチやこのボタン以外にも、コーティング塗装にこだわっていまして、日本の塗料を使っています。
これですと、耐久性が良かったり手垢が付きにくかったりします。
村松
通常のマット塗装ですと、大体1年で問題が出てきます。例えばただのマット塗装ですと1年もするとベタベタになってしまいますが、この塗料であるとそういうことがありません。
Yossy
確かにずっと使っているメインボタンの指を置く部分がテカテカになってしまったマウスがありました。
Yossy
マウスパッドの素材ベースはそれぞれ「布」と「プラスチック」ということですが、こちらも全て独自開発ということになりますか?
小林
素材については既存のものを使わせていただくことになりますが、様々な素材を取寄せて表面の摩擦係数などを計測し、1番数値的に良かった物を採用しています。
Yossy
布は日本製ですか? 布にはいろいろ種類があるかと思いますが、素材的には何になるなのでしょうか?
村松
生地は中国のものになります。
素材はポリエステルです。
小林
プラスチックパッドは、色々な材料を比較して1番耐久性が高かったものを採用しています。現在、他に出ているプラスチックパッドと合わせてテストをしましたが、断然高い耐久性であることが確認出来ています。
弊社のマウスは、マウスコードの付け根の部分を斜め上に向ける設計をして、なるべくコードがマウスパッドの表面に擦らないようにすることも工夫しています。布パッドなどで表面が擦れてしまう問題を防ぐことが出来ると考えています。
Yossy
これは確かによいですね。今後、スタンダードになっていってもおかしく無さそうです。
小林
まず日本のゲーマーのキーボードを使う上で、設置場所の都合を考えるとコンパクト化というのがキーワードになると思っています。そこで、フレームレスにして薄型化をしました。また、耐久性を上げるために日本のアルミ素材を天板に採用しています。
Yossy
スイッチはHORIさん独自のものを採用されているとのことですが、他社でもここしばらく独自のキースイッチを開発して採用するのがトレンドのようになっています。これは業界的にそういう流れがあるのでしょうか?
村松
これもマウスのマイクロスイッチと同じで、他社を追従したわけではなくて開発を進めている中で他社さんからも出てきたという状況ですね。
富沢
キーボードの開発を始めた時にキースイッチの見積りを取ったのですが、よく使われている物は納期が長く、どこの工場もラインがいっぱいということらしいので、それならば我々で作ろうと。すると、台湾や中国のメーカーが日本のHORIがキースイッチを作るなら買うよと言ってくれたんですね。そうしたら、他社からも色々出てきたのですが(笑
村松
キースイッチを開発しようとすると結構な金額がかかるのですが、会社として独自に作る判断をしてくれたのはありがたかったですね。
キーボードの設計においては、メカニカルの耐久性以外に何が良いのというのがという答えがなかなか出なかったんですね。キーの押し込みが深いですし、キーが高いから横のキーを押そうという時に引っかかったりするんですよ。
そこで、キーの高さを低くして、メンブレンのように反発のあるメカニカルキーボードを作れば良いのではないか、というのが仕様のベースになりました。
小林
キーボードの薄型化を実現するには、そもそもキースイッチ自体を薄くしないといけません。なので通常のスイッチより低くなっています。どうやれば押しやすいかといったところまで、既存品ではなく全て新しく設計して製造しました。
村松
日本のゲーマーの方からは「光らなくても良い」という意見がありましたが、アメリカでは「ギラギラ光っていないと」という反応でした。
とりあえず、光をオンオフ出来るようにしていればどちらにも対応できるということで搭載することにしました。
完全に光らせないようにしたり、特定のキーだけ光るように設定できます。
Yossy
今回は青一色のみということになりますか?
小林
キーボードは一色ですね。キーボードの場合、光り方は10段階で変更出来ます。
発光するエリアを編集することも出来ます。
マウスはインジケーター機能も考え、フルカラーLEDとしています。
浅葉
マウスは基本的にはゲームやデバイスを触っている方々だということもありますが、クリックが思ったよりもすぐに反応するというところはすごく評価いただいていますね。
キーボードの方は、メカニカルキーボードなのに反発が強いので、メンブレンキーボードのようだという意見をいただきました。いままでにない指先の感触で最初は違和感があるようですが、使っているといると慣れてきて使いこなせると。
価格の面を気にされる声もありましたが、独自スイッチを作っている関係でどうしてもこのくらいになってしまいます。試しに触れるようにするなどして良さを理解していただければと思います。
富沢
販売店さんに製品の説明に行くと、独自スイッチを作って開発をしたことはとても良い評価をしていただけています。あとは、実際に使うゲーマーのみなさんがどうそこをわかってもらえるかですね。なので、ネットカフェで試用できたり、イベントを開催して説明したりという活動を通じて、その良さを伝えようというところをいま一生懸命やっています。
天野
それをする、しないといったことを決めたりはしていませんが、前向きに検討中です。
今回、弊社もPCゲーミングデバイスに初めて参入するということで、まだまだ何をすれば効果的か、ユーザーのみなさんに伝わるのかというのがわかっていません。
製品が発売となってから色々な意見をいただきつつ色々と試していけたらと思っています。ですので、絶対にないということではありません。
村松
考えてはいます。
ただ、他社さんと同じようなことをしても仕方が無いなと思っているので、どうするのがよいのかということを考えている状況です。
村松
海外も日本に続いて11月中にアメリカとヨーロッパでも販売になります。
Yossy
最初から海外も含めた展開なんですね。日本メーカーのHORIさんが作ったゲーミングデバイスが、海外でどういう評価を受けるのか個人的にも楽しみです。
村松
ヘッドセットはやりたいですね。コンシューマー向けには出しているんですよ。
普通のものを作ることはできますが、PCだとさらに多くのメーカーさんが出されてていますから、HORIならではの独自な要素をいれるというところが難しいですね。
富沢
基本的にはネットカフェさん次第というところもあるのですが、引き続き使えるようにしていきたいと思います。やはり比較的高額なものということもありますので、実際に買う前に触れるという環境を作っていきたいですね。
Yossy
確かに実際に触れるかそうでないかは全然違いますのでそういった環境が引き続きあると良いなと思いますね。自分は昔、とりあえず新しいデバイスが発表されたらカートに入れるというのをやっていたことがありますが(笑
富沢
他社さんから良い物もたくさん出ているので、違いやHORI製品の良さをわかっていただく上でも、触っていただけるようにしていきたいですね。
現在PCゲーミングデバイスは日本のメーカーがありませんので、今回弊社が参入して、日本代表という気持ちで良い製品を提供していきます。
PCデバイスメーカーとしてユーザーのみなさんに認知、評価されるように頑張りたいと思いますので、是非一度店頭やイベントなどで触って頂きたいと思います。イベントの情報は弊社Webページにもアップしておりますので、チェックして頂ければと思います。
「EDGE」ブランドの製品はこのインタビューの場で触らせていただいたのみなので、実際にゲームでの挙動がどうなのかということはわかりませんが、キーボードの独特なキーの反発感や、見た目と違って重くないマウスはゲームで試してみたいと思わされました。
全てを書き切れていませんが、開発者の小林さんが熱心に開発意図を細かに説明にしてくださったのを聞いて、かなりのこだわりをもって作られた物なのだという情熱が伝わってきました。
日本で活動するゲーミングデバイスを総合的に展開していたダーマポイントが実質の活動停止となってしまった状況であるので、コンソールで実績を持つHORI社の製品が評価され、世界でも人気を博していくことになれば面白い事になっていくのではないかと思いいます。